昨今のトランプ現象やイギリスのEU脱退などの国際情勢や,
国連やIMFなどの世界を取り巻く大きな枠組みは理解しにくい部分が多いです。
世界の基本的構造を理解するためには歴史を学ぶ必要があります。
近代は『国家』が歴史の中心にあった時代です。
他国との競争に勝つためにナショナリズムのもと国民を束ね国力の増強をはかったのが近代国家の基本思想でした。
現在の世界システムは第二次世界大戦の後処理から変わっていないものが多々あります。
歴史を学べば現在の世界システムへの理解が深まり、ひいては今後の情勢を考える上でも必ず役に立つでしょう。
国家の正体は幻想?
日本が国民国家として国力を増して行ったのは明治維新の頃からです。
当時のイギリス、フランスをはじめとする西欧列強に日本のエリートを送り込み
列強のシステムをどんどん取り入れていった時代です。
幕藩体制がしかれていた当時の日本人には日本国民としての意識は少なく
あくまで出身藩に自身のアイデンティティを置いていました。
時代劇などを観ると「旅人さんのお国(藩)はどちらですか?」と尋ねる場面をみたことがあるかと思います。

江戸時代は各地の藩それぞれに人々の帰属意識があり
自分が日本国民であるという意識は生まれにくかったのです。
しかし、西欧の列強は国民国家として国力を増し続けています。
それに対抗するため明治時代では国家の象徴として天皇が担ぎあげられ
日本人に日本国民としての意識を作り出しナショナリズムを推し進めました。
ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』

アメリカの政治学者であるベネディクト・アンダーソンは国民国家の構造や成り立ちについて
1983年に発表された『想像の共同体』にて言及しています。
国民国家という共同体とはメディアや教育によって生成された想像の産物であるとアンダーソンは指摘します。
例えば中東の国でビルが倒壊し現地の人間50人、日本人が3人亡くなる事故が発生した場合
本質的には事故にあった方々は直接自分と関わりがない赤の他人であるにも関わらず
日本のメディアが50人よりも3人を取り上げるのはメディアも視聴者も「日本国民」という想像の共同体を生きているからです。
この想像の共同体が生まれたのは、とりわけ新聞や書籍等の出版産業の発達による功績が大きいとされます。
新聞を始めとした国内に向けた情報発信は、国内における事件・事案を共有することによって国民に共通の時間軸と空間を認識させ同胞としての国民意識を養成することに成功したのです。
グローバル化する世界でも国家は健在?
小国にも劣らない経済活動が行われる大都市や
何ヶ国をもまたにかけるグローバル企業
EUのような何ヶ国も包括した経済圏が生まれても
ナショナリズムは崩れることなく、国民国家の数は減ることはないでしょう。
現在でも国連に加盟する国と地域は増えていますし
イギリスのブレクジットは、英国人は英国人であってEU人にはなり得なかったという証左でもあります。
グローバル化が叫ばれ、いくつも共通の経済圏や防衛圏ができても
その下敷きにある国民国家にこそ人々のアイデンティティがあるのです。
世界中の人々が「我々は地球人だ。」と想像の共同体を意識するには
宇宙からエイリアンが侵略しにくるほどのインパクトが必要なのでしょう。